年間マンガランキング30作を各自が持ち寄って、同人誌にまとめて冬コミで売るというサークル活動を始めてもう10年以上になる。
最近は男性・女性向け両方のエロマンガを読むので無差別級ランキングというのをはじめて、2016年のものも作ることができた。


30作のリストだけ先に出しておきます。

1-10 11-20 21-30
doumou「惚れときどきヌクもり」 イサム「五十嵐くんと中原くん」 中陸なか「たゆたう種子」
上原あり「セックスフレンズ」 さとまるまみ「浄化系彼氏」 嘉村朗「ちっちゃな彼女にせまった結果。」
斉木マキコ「気持よくて声も出ない? 〜裏カレシの贅沢な躾け方〜」 雨山電信「雨山式雌穴マンゲ鏡」 知るかバカうどん「ボコボコりんっ!」
スカーレット・ベリ子「ジャッカス!」 高尾鷹浬「女体化ヤンキー学園★ 〜オレのハジメテ、狙われてます。〜」 amco「愛しのストレンジマン
小石ちかさ「大江戸妖怪快奇譚 人外枕草子 夏野ゆぞ「女装メイドは逆らえない」 西形まい「 GAME〜スーツの隙間〜」
御免なさい「だから神様、ボクにしか見えないちいさな恋人をください。」 天原貞操逆転世界」 塔サカエ「大胆不敵ラブコール」
朝田ねむい「Loved Circus」 ニャンニャ「スイートハート・トリガー」 紅唯まと「僕は管理・管理・管理されている」
虫歯「フェイクファー」 冴月ゆと「オネエ失格 ケダモノに豹変した午前3時」 丸木戸マキ「ポルノグラファー」
叙火「八尺八話快樂巡り 異形怪奇譚」 ヒゲフサ「ゲーム屋BL」 加藤茶吉娼年インモラル」
六角八十助「乱乱♪おにくまつり」 青丸「センセー(仮)のお仕事」 コダ「漫画家とヤクザ」


2014年版はこちら。http://d.hatena.ne.jp/nekokamen/20150112


1〜10位


01. ドウモウ「惚れときどきヌクもり」(男性向け)

惚れときどきヌクもり (真激COMICS)

惚れときどきヌクもり (真激COMICS)

コミックアンリアル快楽天で活躍するドウモウ/doumouだが、クロエ出版のコミック真激で描くようになって作品の幅……有体に言えば変態性がぐっと広がった。更に具体的に言えば近親相姦のことで、様々な近親相姦を描いてきた「好き好き!」シリーズが、この単行本収録作で見事にまとまったことはとても嬉しい。禁忌である血縁関係なのに、いやおう無く惹かれあう男女二人の葛藤・愛情を、エグくもロマンチックに描き出す手腕には感謝の念しかない。真激の前作「セックスのち両想い」も、男装少女が少年野球でハプニングを起こす話がなかなか変態的かつ爽やかな青春ストーリーになっていて、ショタBL出身の業を感じさせるよい出来だった。




02. 上原あり「セックスフレンズ」(女性向け(BL))

セックスフレンズ (バンブーコミックス Qpaコレクション)

セックスフレンズ (バンブーコミックス Qpaコレクション)

自分は元々BL読みなのでBLランキングには男性向けより自信があるが、2016年も引き続き竹書房Qpaは強かったと言わざるを得ない。2014年に出てきた人気ツートップ、はらだ・おげれつたなかの影響から未だ脱しきれないのが今のBLジャンルだが、その中でもQpaの打率は高く、また層も厚かった。本作は繊細でオシャレ、なのにただれきっててユルユル! タイトル通りヤリチンのカジュアルなセフレ交遊録でキャラクターと退廃的なセックスシーンで延々と場面をつなぐのだが、画面の華やかさゆえに全く眼福としかいえない。登場人物のチャラい遊び人っぷり・端整で垂涎モノの肢体・汁まみれなセックスシーンと、どれをとっても華やかできらめいており、読んでいて非常に気分がアがる。パリピ。きらびやかで艶めかしい人物の一方で、背景・調度品のCG描写はカチッと無機的なフォルムから漂うデザイン性にもくすぐられるところで、ヤリチン共のアーバンオシャレライフを一層ラグジュアリーに彩っていた。カップリング固定化のハッピーエンドを目指す恋愛ジャンルにおいて、構造的に縁遠いはずのセフレ肯定をテーマに乗りこなした手腕も高く評価したい。




03. 斉木マキコ「気持よくて声も出ない? 〜裏カレシの贅沢な躾け方〜」(女性向け(レディコミ))

秘密の社内恋愛という舞台設定はレディコミの中でも王道に位置するところだが、本作は性行為の描写力という点でずば抜けており、特に焦らしの演出には大変はかどるものがあった。男性向けに頻出の局部アップやトロ顔描写を取り混ぜつつも、フィニッシュよりも過程の濃密さに重点をおいた構成は女性エロらしく、いいとこどりなスタイルがうまく成功している。2016年の女性エロのブームからは若干外れるところだが、女性向けでもエロさを積極的に出してほしい自分の性癖においてはダントツだった。BLでも単行本を出しているがそちらは比較的淡白。




04. スカーレット・ベリ子「ジャッカス!」(女性向け(BL))

ジャッカス! (ディアプラス・コミックス)

ジャッカス! (ディアプラス・コミックス)

男子校を舞台にしたちょっとアブノーマルな青春模様。ストッキングフェチな男子高校生の煩悶というとプルちょめの「フェティシズム少年」に連なるところだが、男子校的な青臭いガキ共のひたむきさとバカさが眩しい一冊。人間模様の整理が上手く、メインは高校生同士だがサブキャラの年の差恋愛も丁寧な話運びが光った。特に三十路姉御はBL助演女優賞として2016年屈指の素晴らしさ。作者はBLのポーズ集・デッサン集を手がけていて、身体の描き方・体位の絡みは流石に安定感がある。まあBLも画力の高い人がごろごろしてる世界だが……あと、女の子の扱い慣れてる手つきで本命落としてくるの興奮するよねっていう。舞台は男子校なのにね。




05. 小石ちかさ「大江戸妖怪快奇譚 人外枕草子」(男性向け)

百鬼夜行のエロというと少し戸惑うが、妖怪ロリババア連合とその寄生先となった主人公男性の話。人外エロは1ジャンルとしてもう珍しくもないレベルにまで成長したが、本作のように空想の生き物をケモノベースで独自のエロさにまで落とし込むとなるとブラボーという他ない。ロリでありケモであり人外であり屍姦であり、というエルドラージな特殊性癖オンパレードは正直恐ろしい位で、これを余すところなく使用できる人というのは尊敬してしまう。妖怪・性癖大戦争みたいな設定だがストーリー・キャラクターの作りこみも充実しており、相当な力作に仕上がっている。なお作品の刊行は2015年末なのだが、ここでは2015/11〜2016/10末までの作品からセレクトしている。この作品を外すと、同じ男性向けエロならディビ「その指先でころがして」(2016/12)がどこかに入るだろう。




06. 御免なさい「だから神様、ボクにしか見えないちいさな恋人をください。」(男性向け)

御免なさい待望の復帰作。ロリコン漫画の中でも、ロリに抗えず惹かれてしまうという展開は格別だし、ロリ可愛い描写をかくれみのにして高画力から超展開のバカエロ演出に費やす無駄遣い感もこの上なく好きだ。ロリコン漫画界に御免なさいがいるという事実が勇気を与えてくれる。今までより更に磨きのかかったエロ描写、ドライヴ感溢れるその筆致にこれからも期待していきたい。




07. 朝田ねむい「Loved Circus」(女性向け(BL))

Loved Circus (Canna Comics)

Loved Circus (Canna Comics)

借金苦からゲイ向け風俗で働くこととなった主人公とその同僚達の話。ヘテロである主人公がゲイ風俗でキャストとして働くという割とひどい展開はコミカルに済ませていて、話の本筋は風俗店の仲間やオーナーとの運命共同体の人間模様にある。日陰暮らしな彼ら(実際、話の大半は屋内か夜間に進む)の各自ばらばらな生き様はたまらなく人間臭くてヴィヴィッドで、ノワールな基調のこの作品をまばゆく彩っている。特に物語が収束に向かう終盤のストーリー運びが出色で、キャラクターの魅力がBLを超えて人間賛歌のレベルで発揮されているエピローグは必見。朝田ねむいが正直ここまで人物を描ける作家とは思っていなかったというのが本音なのだが、妄想を昇華させるだけのキャラ愛を持って、是非また長編で読みたい。




08. 虫歯「フェイクファー」(女性向け(BL))

フェイクファー (Dariaコミックス)

フェイクファー (Dariaコミックス)

セフレと旅行に行き、恋人になって同棲にいたる話。BLではいくらでもある設定だが、そんな当たり前の展開を独特のテンポ感で綴り、ロードムービーのような雰囲気の親密さと共に、妙な説得力を持って読ませてしまう不思議な魅力がある。ポップで特徴的な絵柄が目を惹くが、展開にマッチした画面構成とコマ演出、効果音や背景の入れ方がいちいち絶妙で、マンガちょっと上手くないこれ? という驚きが感動と共に湧いてくる作品。




09. 叙火「八尺八話快樂巡り 異形怪奇譚」(男性向け)

5位の「大江戸妖怪快奇譚 人外枕草子」と同じ、ジーウォークのQooPA/コミック彩蛇で連載されたホラーアダルトコミック。八尺様をはじめ、洒落怖系のオカルト話をエロアレンジした造りになっているが、アレンジしてても怖い! むしろエログロ描写によって生理的な嫌悪感が増幅されており、夢に出てきそうなトラウマ級の怖さがエロ以上に光る作品になっている。ご存知のように広告から人気に火がついた作品で、amazon限定版が出るなどだいぶ興味深い盛り上がりを見せた。基本的な作風自体は既刊の「悪意の匣」「ヒトモエ委員会」の頃から変わっていないのだが、題材ひとつで大化けするのがエロに限らずマンガの面白いところ。




10. 六角八十助「乱乱♪おにくまつり」(男性向け)

ワニマガジンのエロは好物で、このランキングにあまり入ってこないのはチョイスがだいぶひねくれているからなのだが、まあ本作に関して言えば夢のような洗体プレイを見せてくれた「おもてなしっ!」の破壊力に撃沈したということに尽きる。汗っかき土方ヒロインの理緒さんもよかったけど。洗体やマッサージがメインのエロマンガ、もっと増えてほしいんだよなあ。


11〜20位


11. イサム「五十嵐くんと中原くん」(女性向け(BL))
五十嵐くんと中原くん (1) (あすかコミックスCL-DX)

五十嵐くんと中原くん (1) (あすかコミックスCL-DX)

高校デビューでヘタレチンピラにチェンジした中原くんが出会ったのは、オラついたガタイで用心棒のような威圧感のある、ガチ不良の五十嵐くん。クズシンパシーを少し覚えるも、五十嵐くんの上から目線な物言いに、キレ気味でメンチを切ったら何故か懐かれて……という話。小心ビビリな中原くんが接する不良文化のカルチャーギャップが秀逸で、サブキャラのキャバ嬢のウザ絡みなどギャグとしてもかなり楽しい(未成年の五十嵐くんの取り巻きがキャバ嬢って流石にリアリティを認めたくないぞ)。設定勝ちなカップリングBLなのだが、無気力クズな自分に嫌気がさしている五十嵐くん、根が常識人で世話焼きな中原くんという内面を掘り下げていくつくりが丁寧で、設定にとどまらず行動原理に落とし込んだ上でキャラクターが動いている良作。真面目系クズという世知辛いカテゴリーに陥りそうなところを懸命に踏ん張っている中原くんを応援したい。




12. さとまるまみ「浄化系彼氏」(女性向け(BL))

ふゅーじょんぷろだくとのBLは2015年はオメガバース、2016年は食男アンソロジーと企画力が群を抜いており、二次創作の商業化で食ってる同人ゴロ、みたいな認識からだいぶ上方修正されている。このランキングでBLは候補が絞りきれなかったので、1社1作品の制限を入れて作ったが、ふゅーじょんからはこの作品にした。さとまるまみ2016年には「おさななじみUMA」、「先生、ためしてみますか?」と合わせて3冊、2015年にも2冊を出していてなかなかの量産力で、本作もストーリーとしては平凡なのだが独特の癒し系な作風が上手くハマッていた。階級社会としてのオメガヴァースに踏み込んでいたのも評価したい。
丸顔めめ「よなよなもしもし」、エマオ「残骸はあさってのほう」、よつあし「僕のハイスペック彼氏様」、イゴ彦「愛しのセンチメートル」など、ふゅーじょんは他も良作が多かった。「コオリオニ」について言えば、梶本レイカの中ではやはり「高3限定」の方が……という想いで選外。というか今更わざわざランキングに入れなくても皆知ってると思うし。




13. 雨山電信「雨山式雌穴マンゲ鏡」(男性向け)

創作同人で活躍する雨山電信の初単行本。自分が同人からの熱心なファンかというとそうではないが、少し時代がかったオタク趣味的世界の香りがあり、なかなかに変態な内容だが読んでいて不思議と居心地がいい。絵柄のアクの強さもあいまって、独特の蠱惑的な雰囲気が癖になるような作風だ。岩波先輩とか留々家姉妹とか可愛いんですよね。作中の漫研サークルの売上38部というところに親近感を覚えてしまって辛い。




14. 高尾鷹浬「女体化ヤンキー学園★ 〜オレのハジメテ、狙われてます。〜」(女性向け)

内容はタイトルが示すとおりで、特に大した理由なく女体化したヤンキーがライバルだった相手に勘違いされたまま惚れられてヤられる話。女体化というジャンルを一概に男性向け/女性向けと規定するのは難しい。一応、刊行元がリブレ出版ということを勘案して女性向けとしているが、しかしBLジャンルのビーボーイレーベルでここまで女性裸体とセックス描写が盛り沢山の作品が出てくるというのは、ジャンルの多様化を痛感させられる。



15. 夏野ゆぞ「女装メイドは逆らえない」(女性向け(BL))
女装メイドは逆らえない (マーブルコミックス)

女装メイドは逆らえない (マーブルコミックス)

バイト先のメイド喫茶で何故か女装して働くことになり、客として来た同級生のボンボンに目を付けられてしまう。女装男子は可愛い、メイド服ならもっと可愛いという萌エロ一直線な発想に基づいた内容だが、画面のクオリティが高く眼福である。メイド服ほか着衣の表現はなかなか力が入っていて、フリル地のめくれ方が扇情的だったり、体のラインを感じさせる上着のシワをツヤベタ込みで見せてくれるのは嬉しい。肝心のメイド服男子も、ガリ気味で薄い胸にまるく膨らんだ股間という定番要素をしっかり出してくれる。全体に欲望に忠実な内容に仕上がっていて素晴らしいの一言だ。




16. 天原貞操逆転世界」(男性向け)

貞操逆転世界 (KAIOHSHA COMICS)

貞操逆転世界 (KAIOHSHA COMICS)

「発想の常勝無敗」というキャッチコピーが単行本帯に付いていたが、モン娘ソープと貞操逆転世界という天原の2大マスターピースが味わえる発明博覧会だと思ってよいだろう。この発明品でどれだけ同人DL数を稼いでるんだ? と誰しも考えるわけだが、同人から商業単行本化して更にコミックヴァルキリーで全年齢向けコメディとして連載化という流れもかなり異常。同じように同人人気作をそのまま商業単行本化した作品というとまろん☆まろんの「強制孕ませ合法化!!!」が記憶に新しい。どちらもも同人作家の人気に出版社があやかる形なので思うところが無いではないが、貞操逆転世界についてはヴァルキリーでの連載の方も単なる焼き直しと思いきやユニークで、最新話(第5話)では貞操逆転先の世界で学生漫研貞操逆転ジャンルを議論するという構造が面白い。単にこじれていると言えばそれまでだが、貞操観念(というか社会のジェンダー意識前提)が違えば生まれるエロ表現も変わってくるという話であり、社会通念に囚われない自由な表現を模索できているかという問いにも通ずる汁ワックスやゴムつけフェチが自然な流れで出てくるエロマンガは、貞操逆転先の世界で無いと本当に生まれないのか? 単にエロの発想とニーズが貧困なだけではないのか? そう考えると、我々エロマンガ読みとしても居住まいを正さざるを得ない。
エロもいいんだけど、そのずば抜けた発想力・構成力(エロではあまり発揮されてない)を生かして、原作者として青年誌で長編連載を組んで欲しいといつも考えてしまう。「平穏世代の韋駄天達」も更新が長いこと止まってるし……。




17. ニャンニャ「スイートハート・トリガー」(女性向け(BL))

スイートハート・トリガー (バンブーコミックス moment)

スイートハート・トリガー (バンブーコミックス moment)

ハイスクールのジョック(カースト頂点)に勝手に惹かれた陰キャのナードが、袖にされたと勝手に勘違いして銃で殺してやると空回り。病的な主人公の思考と、それを鷹揚にうけとめながらも振り回される相手、仲直りックスで立ち直すもまたネガサイクルが再燃して……という流れは読んでいて飽きさせない。実際に付き合うとしたら到底勘弁だが、一貫してネガティブかつわがまま(しかも銃を所持している)という心底扱いづらい受のキャラクターは新鮮で面白い。個人的にはサブキャラで出てくる女の子が当て馬どころではない活躍をして非常に魅力的だった。moment/シュークリームの作品だし、フィールヤングで女の子主人公の短編連作でもやってくれないかな。




18. 冴月ゆと「オネエ失格 ケダモノに豹変した午前3時」(女性向け(レディコミ))

TL(ティーンズラブ)の大御所となった宮越和草が女体化TL「『女』として抱かれたい」を開始したり、アルファポリスのエタニティコミックスで幸村佳苗/井上美珠の「君が好きだから」が2ヶ月足らずで4刷と健闘したりという話題はあったが、2016年のレディコミ・ティーンズラブがオネエ失格と漫ヤク(後述)で語られるのは間違いない。オネエ要素は元々BLで一定の需要があり(いちいち例示するまでもない)、それがレディコミに流入していくのは自然な流れ。これまでのランキングで見てきたように、女装・女体化といった要素もBLが通ってきた道だ。長い睫毛とタレ目はオネエの基本にして独特の色気をかもし出す作画記号で、個人的にもオネエ要素というのは好物である。
性的マイノリティを商業人気を取るための売れ筋要素の鉱山であるかのように、次々と消費していくことは当然省みられるべきなのだが、ことレディコミに関しては流されやすいヒロインであったり男性側の狼藉であったり、もはや構造的な次元でポリティカル・コレクトネスへの脆弱性がある。男性向け/女性向け両方をたしなむ身としては、そうしたお約束の問題は自覚しつつ楽しむ他ないという認識だ。セクシャリティを都合よく曲解したキャラクターを組み合わせて、君だけのオリジナル性癖カップリングを作ろう! と自覚的に割り切ってジャンル深化・細分化を進めていくことは、このセンシティブな問題への呼びかけ・アプローチとして文化が持つ機能であり、それ自体は極めて健全なものだと信じている。
もう少しフォローしておくと、オネエ失格には終盤にオネエ側について性的嗜好を改めて問うくだりがある。そのやり取りの是非はジャッジしないが、作者側がオネエというセクシャリティを少なくとも自覚的に扱っていることが確認できて、自分としては嬉しかった。ちなみに配信開始・単行本刊行共にオネエ失格の方が漫画家とヤクザよりも後のタイミング。どちらも早い時期から人気のあったタイトルだが、結果として後塵を拝する形となりながらも版を重ねているオネエ失格は奮闘したと言ってよいだろう。




19. ヒゲフサ「ゲーム屋BL」(女性向け(BL))

ゲーム屋BL 上 (IDコミックス)

ゲーム屋BL 上 (IDコミックス)

ゲームクリエイターの上司と部下、2人が製作中のゲーム世界に迷い込んでしまうという破天荒な設定のBL作品。同人での人気作で、発表は2014年頃までさかのぼる。計700ページに及ぶ大作だが、コミカルな絵柄とゲーム世界らしい怒涛の展開が飽きさせない。開発に携わっていたという作者のゲーム愛は世界設定や小ネタからも感じられ、BLでここまで恋愛と無関係の方向性(ゲーム)に突き進んだ内容も珍しい。ゲーム考察に負けない強度で繰り広げられるヒゲの濃いオヤジと新卒リーマンの絡みが若干人を選ぶのだが、トンデモな舞台設定と合わせて全力入魂の圧倒的なボリューム・読み応えを堪能できる一冊。




20. 青丸「センセー(仮)のお仕事」(女性向け(BL))

センセー(仮)のお仕事 (G-Lish comics)

センセー(仮)のお仕事 (G-Lish comics)

実習先の不良生徒に振り回されるセンセー(仮)のBL作品ほか短編集。クリアな描線で綺麗どころの青少年たちの友情とラブをつづる、G-Lish/ジュリアンパブリッシングのスタンダードな作品だ。個人的にはもみあげ・首筋のラインになかなか色気があってはかどるところ。掲載誌aQtto!は竹書房Qpa/麗人Uno!に次ぐ電子配信のBL誌。ジュリアンは紙の雑誌を持たないBL出版社として電子配信BLの隆盛を象徴する存在である(関係の深い大誠社&ブライト出版も今は雑誌刊行していない)。



21〜30位


21. 中陸なか「たゆたう種子」(女性向け(BL))

たゆたう種子 (eyesコミックス)

たゆたう種子 (eyesコミックス)

ホーム社/集英社から刊行のBL新人作品。ホーム社経由とはいえ集英社からBLコミックが出ているのは少し意外かもしれないが、2016年は同社からBLアンソロ誌「.Bloom」も創刊されており、BLへの集英社の歩み寄りは年々高まっている。本作は休刊したホーム社BL誌「BLink」のレーベルに連なるもの。生物教師と補習生徒2人の微妙な三角関係が植物のモチーフを挟みながら描かれており、ボタニカルアートを思わせる単行本装丁の落ち着いた雰囲気とよくあっている。丁寧な描線と少し顔を歪めて笑うキャラクターの表情が印象に残る作品だ。




22. 嘉村朗「ちっちゃな彼女にせまった結果。」(女性向け(TL))

ちっちゃな彼女にせまった結果。 1 (スキして?桃色日記)

ちっちゃな彼女にせまった結果。 1 (スキして?桃色日記)

このランキングで1つだけ未単行本化作品を入れた(書影は電子配信第1話だが、2016年には8話まで収録した電子単行本が出ている)。奥手で恥ずかしさのあまり、告白が暴走しちゃったヒロインと、それをちゃんと受け止めてくれた彼氏。たどたどしい二人三脚な恋を甘酸っぱく描いたフレッシュな作品だ。素直になれないヒロインの可愛さが溢れており、ともすればエッチ描写は余計な位にラブラブな初々しさがイイ。電書で合冊版が出ているので、2016年の作品ということでランクインさせた。
作者の嘉村朗はキャリアも殆ど無い新人作家だが、本作に続いて始まった少女マンガ連載「まじめだけど、したいんです!」が現在進行形で大ヒットしている。既に次世代の波を感じさせる勢いで盛り上がっており、時代はエロが薄い方が受けるのかなと思わないでもない(「まじめだけど〜」は性描写が非常に薄いTLと言ってもよい)。




23. 知るかバカうどん「ボコボコりんっ!」(男性向け)
(書影なし)
2016年の話題作ということで入れない理由は無かった。雑誌ではじめて読んだ時はかなりショッキングだったし大丈夫かこれと思ったが、いざ出回ってしまうと波乱を起こしつつも人気作家として受容されているのは、なかなか凄い。某ムカデ食肉マンガもそういう流れに乗るのかな……。作者の言葉のセンスが好きなのだけど、作中で一番印象的なセリフは「ドラマなら100点だけどAVなら20点ぐらい」と親子丼撮影でカメラ役が評する箇所。同じような気分で作品を読んでる身としては、対岸からいっきに同じ立ち位置へと引き寄せられる感覚もあり、冷静に読めないのがいい。




24. amco「愛しのストレンジマン」(女性向け(BL))

愛しのストレンジマン (ショコラコミックス)

愛しのストレンジマン (ショコラコミックス)

勇気を振り絞った告白がぼんやりスルーされたところから始まる学生BL。双方が空回りしてすれ違う様がコミカルに展開されるが、個性的な絵柄ながら安定した作画で、キャラクターの多彩な表情を見せてくれるのがよい。単行本表紙のような1枚絵がとても魅力的なのだがキラキラとしたトーンワークも特徴的で、今後更に上達したマンガを読んでみたいと思わせる作品だった。




25. 西形まい「GAME〜スーツの隙間〜」(女性向け(レディコミ))

セックス中も会社の電話を優先してしまう仕事人間のヒロインと、女の子を食い荒らしてきたオーラ全開のいけすかない新入社員。お互いに恋が分からないもの同士で、「身体からはじまるレンアイ」が出来るかのゲームを始めるが……? あらすじを描いてみても何か論理の飛躍があるように感じるが、その違和感も綺麗に押し流してくれるコマ運びは流石ベテラン。花とゆめで長いキャリアを持つ作者だが、電書配信誌「Love Jossie」連載の本作でレディコミジャンルに飛び込み、またたく間に人気を席巻することとなった。謎めいたヤリチンと恋愛下手のヒロインという設定をどう深堀りしていくかというと、そういった進捗は既刊2巻まで読んでも全く無い。ベッドシーンでの手練手管を情感たっぷりに描いてくれるだけで毎話が進み読み手もはかどるという体制が構築され、この作品でヒロインが自らの罠に引っかかって致してしまうのと、内容の進展が一切無くても読者がついついページをめくってしまうのは鏡写しのドキドキ感がある。
全く関係ないが、性描写が1ミリも出てこない大学生サークルの清すぎる交際を描いた「ラストゲーム」の完結も2016年で、柳君とみこっちゃんは結婚して2人のゲームはこれからも続くんだという締めくくりに目まいを覚えてしまいましてね……同じ白泉社でGAMEだけにね……(ゲス顔)。




26. 塔サカエ「大胆不敵ラブコール」(女性向け(BL))

高校入学で出会ったクラスメートの世話を焼いて、急速に親しくなっていくBLストーリー。幻冬舎LYNXから同人作品の単行本化というのはちょっと珍しいような? キャラクターがばっちり立っていて、2人の関係がとてもいじらしく、微笑ましい。ポテンシャルを強く感じさせる作品だった。




27. 紅唯まと「僕は管理・管理・管理されている」(男性向け)

貞操帯をつけて勃起を禁じられる、位ではそんなに驚かないのが昨今のマゾ系エロマンガだが、本作は射精管理がメインであり、射精は(基本的に長期にわたって許可されないが)絶対NGというわけではない。まあ男性エロマンガの展開上、ノー射精でフィニッシュする作品はかなり珍しいし、その快楽を盛り上げるためにエロマンガの技法が発達してきたことを考えると、射精のコントロールというのはある意味、カタルシスのタイミングを意図的に極大化させるシナリオ設計と近しいものがある。そう思うと本作は特殊性癖を描きながらもストーリー展開としてはごく自然なエロマンガになっていて、初心者に間口が広い作品と言えるかもしれない。一応純愛だし。
射精管理は同人音声で発達してきたジャンルで、リピート・シャッフル機能やスクリプトの日次再生スケジューリングといった個人的な使用手続きのディレクション/メンテナンスを踏まえることで高度な管理感を満喫するような奥深さがあるのだが、その辺はマンガ媒体にはあまり馴染まないかもな……というのは少し残念。




28. 丸木戸マキ「ポルノグラファー」(女性向け(BL))

ポルノグラファー (onBLUEコミックス)

ポルノグラファー (onBLUEコミックス)

官能小説家と、彼の代筆業をすることになった青年の話。「円と球」が手がけた装丁は手書き原稿を表紙背景に配したもので印象的。眺めると自然と書き手を想像してしまう辺り(祥伝社の営業マンらしい)、作中の背徳感を上手く演出している。絵柄がやけに落ち着いているのは良し悪しで、メジャー感があるもののBLとしての昏さ・色気がやや物足りない。フィールヤングに進出して欲しいような……関係ないけど作中の桜桃社という出版社名、桜桃書房を連想して懐かしかった。




29. 加藤茶吉娼年インモラル」(男性向け)

加藤茶吉の18年ぶり復帰作というのは流石にびびる。2015年に新刊出した胃之上奇嘉郎だってそんなに間空けてないぞ。女装少年ジャンルの隆盛に思いを馳せつつ掲載誌の脈々とした歴史を訳知り顔で語るのは、マニアに刺されるので触れられないが(司書房のPet-Boy'sとか流石に読んでないッス)、華美な衣装は男の娘が一番映えるなあと改めて認識した。収録全14作はバリエーション豊かな服飾に目移りしてしまうが、いずれも見入ってしまうような悪魔的な魅力を男の娘に与えており素晴らしい。同じ女装少年の同性セックスでも、BLと男性向けの差がはっきり感じられるのは興味深いところ。



30. コダ「漫画家とヤクザ」(女性向け(TL))
漫画家とヤクザ 1【通常版】 (ラブコフレコミックス)

漫画家とヤクザ 1【通常版】 (ラブコフレコミックス)

ラストはご存知の漫ヤクなのだが、「何故この作品が2016年に爆発的にヒットしたか」という話と切り離して語ることはできない。で、自分なりに考えたのだが色々長くなってしまったのでこの場では保留で。最下位に持ってきたのはあまりエロくないからです。pixivで公開されてるプロトタイプ版は結構エロいんだけどなあ。