• 菊池直恵・旅の案内人横見浩彦鉄子の旅』6巻
    • 完結巻。各話間の担当編集メモや作者の楽屋裏的小話もサービス満点なこの連載もついに終了。最近ようやく高尾から東京までの駅順(快速に限る)が言えるようになった程度の自分でも何故か楽しくページがめくれてしまうのは、横見氏の奇抜すぎるキャラクター性と、それを余すところ無く伝えられる作者の才に他なりません。横見氏の言動によって楽しくまとまる筈の展開がかなり不安定に走るのは実体験ものとして回避できない弱点ですが、旅行記として望ましい(というか常識的な)姿からどんなにセオリーを外れようと演出の匙で完全にまとめ上げる手腕は毎話読んでいてほれぼれ。横見マジックを全身で受け止めて返せるプロレス的な役目は作者以外きなこちゃんでも村井美樹でも務まりませんね。正直IKKIに置いておくには勿体無いくらいの…と言いたいがIKKI編集長だったからここまで長期連載になったわけで。完結してもなかなか縁が切れそうにはないですね。作者にとって今後の作品発表は動きが取りづらそうだなあ、というのは取り越し苦労でしょうか。
  • 新井葉月薬屋りかちゃん
    • 新井葉月を買うのははじめて。『少女生理学』が初単行本かと思ってたけど、ずっと経歴の長い人だった。適度に業界話をするかと思いきや、どうしても恋愛に揺れ動く心のなんとやらにシフトしてしまうのは作者のサガか。登場人物の苗字が塩乃樹・大塚・武田・山之内と、製薬会社になっているのがちょっと面白い。しかし『薬師あるぢゃん』みたいなタイトルですね。
  • こうの史代『街角花だより』
    • こうの史代足かけ12年の軌跡。というほどではないが、読み進めるとどんどん作品が古くなり質も下がっていくので、成長というものが感じられます。同時に普遍性も。そして着実に面白くなった作家さんなのだから、昔の作品についてこれはまずいとか駄目だとか言わなければ良いのに。テーマは百合、というのは言いすぎだが、しかし「百合姉妹」で連載しないかなあと常々思ってたり。あと表紙加工が割と凝っているのに値段はそれほどでもないので、『夕凪の街 桜の国』は傑作だけど高いよねという個人的な思いを打ち消せた気分になりました。
  • 中村明日美子『ばら色の頬のころ』
    • 自分の中で同じく傑作である『Jの総て』を描き終えた、と思ったら早々とその物語の過去話に取り掛かり始めた明日美子先生には、筆がのっていて宜しいことと嬉しい一方で若干不安というか釈然としないものを感じていました。という連載当初の思いはこっちに。通して読んだ感想は2つ。作者お気に入りのモーガンについて前作ではカバーできなかった部分を補完していて良いというのと、しかしモーガンとポールのやりとりは『Jの総て』の頃と全く同じ形なのでもう少しどうにかならなかったのかと。それでも十分面白いのですが。「モーガン→ポール」の関係は前作の頃からかなり匂っていたので、ファンとしては嬉しいの一言。特に大人になってからの描き下ろしが最高。少年も遜色無かったが、明日美子先生はやはり大人を描いて欲しいです。そして出来ればユースタスさんも助けてあげて下さい。「バレンタインビヨリ。」でも触れられてなかったしなあ。
  • テラシマ『ポラリスベル』
    • 本作は作者の初単行本。表題の連作はバツイチ初老の車掌さんに何故か惚れちまったチャラい高校男子をめぐる年の差もの。なのだが、非BLです。だって収録4話中で視点人物(主人公)でホモはその高校男子1人だけ(正確にはバイセクシャル)、つーか1人は女だし。実際彼が主人公である第1話が最もBLらしく、同時に平凡(それでも結構奇天烈だけど)だと感じました。だからBL作家としては駄目なのかというと、第4話の落とし方が見事なのでそうではない。話の構成と人物の複雑な心情描写にかなり優れた作品で、これは相当難産して描くタイプの人なのだろう。と思っていたが、もっと前に掲載された同時収録の読みきりは凄い詰め込みっぷりだったので成長を感じました。あとは斜めのコマ割りが減って、横顔が安定して描ければ言うことなし。新人でここまで描ける人は本当に稀なので、これからも成長していって下さい。

  • ヤマシタトモコ『くいもの処 明楽』
    • ライバル「OPERA」の茜新社との差別化をどうしていくのかずっと見守ってきた東京漫画社ですが、カタログシリーズでテラシマとヤマシタトモコを出してくれて本当にありがとう! 「MARBLE」の初期はつまらないとか言ってましたが、別冊の方も上手くいくといいねえ。というわけで真下トモことヤマシタトモコさんの初コミック。サンゾロで人気だったというのが実に納得のいくゾロっぷり。今にも口に煙草でなくポン刀をくわえそうな目つきの兄ちゃんと、若い頃はいわしてたけど最近年を意識し始め新しいことに億劫になってきたおっちゃんのBLです。というと出来ることは大体想像がつくのだが、兄ちゃんの性格付けの妙や割とハード寄りの絵柄なのに光るギャグシーンなどのお陰もあってかマンネリ感はない。絡みの時も2人の駆け引きが妙に愛に溢れててよろしい。アフタヌーン四季賞作も良かったけど、ちゃんとガチで勝負できる人ですよ。「BE BOY GOLD」の方でもそのうち単行本になるといいなあ。