杉山小弥花『当世白浪気質〜東京アプレゲール〜』1巻


たいへん面白かったので紹介も長々と。

  • あらすじ:戦後間もない頃、東京では復員兵と進駐軍がごった返し、闇市が活気付き、GHQが政府を仕切っていた。人々がそれまでの社会通念から解放されて、新しい世の中の動きにとまどっていた「アプレゲール」の時代。ロシア帰りの盗人あがりである主人公・吉田虎之助は、ひょんなことから親代わりをつとめることになった美少女・千越(ちお)に手を焼きながら、戦時のごたごたで明るみに出てきた美術品をくすねては売りさばくその日暮しを送っていた。光と闇が混在する中に様々な陰謀が錯綜しつつも、徐々にモダンな賑わいをみせていく東京を舞台に、2人が戦後の潮流に見るものは―― 2人の関係を軸にして時に戦後日本の風俗を交え、人々の生き方と変わらない愛情を描く話題作。というか初単行本にして紛れもない傑作。
  • 感想:全体的に話の構成がとても上手い。伏線の回収が思いもよらないとかテクニカルな意味ではなくて、上に書いたような戦後混乱期の風俗史として様々な登場人物と多彩な舞台が描かれ、その配置が絶妙に利いている。人物なら心情は勿論のこと、設定の細かさと当時の思想がよく反映されているし、それとは別にキャラクターとしての魅力、特にデフォルメの愛らしさは異常。各話通して「戦後」が人々に与えた様々な影響を見事に描き、背景の小道具一つ一つから当時の雰囲気が浮かび上がるような資料の豊富さはとても新人の知識とわざとは思えないリアリティがある。歴史的な視点と切り離したって、トラ(虎之助)と千越の異色ラブコメとして心情を追ってるだけで並みの面白さじゃない。各話ごとに2人の距離が変化していく様子は、どこにも隙が無くていちいち上手いなあ・・・やっぱりこれが初単行本とは思えない。セリフも皮肉で笑えるものから、真面目なところに捻りを入れてるものまで自在だし、笑いに溢れてる一方でシリアスなところはダイレクトに響く。全話どこを切り取っても見事の一言に尽きる。

と、今はこの本に惚れこんでる状態なので面白さを力説するとどうしても文章が堅くなってしまうます。単行本は1巻に7話まで詰め込んで、丁度2人の関係が一段落したところまで。区切りの良いところまで収録させたミステリーボニータにも拍手を送りたい。そして是非2巻も発刊してください。というわけで販促リンク。千越の可愛さだけでも絶対に読む価値があります。

当世白浪気質 1 東京アプレゲール (ボニータコミックスα)

当世白浪気質 1 東京アプレゲール (ボニータコミックスα)