• アーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』
    • 極寒の地として<冬>の呼称を持つ惑星ゲセン。発情期と両性具有という稀有な生理を持つこの星の人類との間に外交関係をひらくことが、宇宙連合エクーメンの使節、主人公ゲンリー・アイの命である。しかし社会形成に深く根付いたその特異なセクシャリティゆえか、彼らは精神構造からして理解に難く、ゲンリーの存在は本人の思惑とは無関係に周囲を恐怖と政治的争乱へと陥れていく。彼自身がその渦に巻き込まれ危険に晒される中、果たしてゲセンは連合の一員となることが出来るのだろうか(てんてんてん)? という話です。
    • ル・グィンといえば文化人類学ですよと聞きつつ、ゲドを読む限りピンとこなかったんですが本作はなるほど全面的に文化人類。「シフグレソル」という惑星固有の単語(プライド・体面に近い意味か)に代表される、異星人との手探り文化交流の有り方が描かれています。主人公の語りの合間にTIPSのように挿入されるゲセンの故事・民話なども不思議な話ながらどこか昔話的な懐かしさを感じさせ、確固とした世界観を土台として人々の奇妙な生活が違和感無く出来上がっているのは物凄い技量。
    • 後半は主人公ゲンリーが氷原をひたすら歩くのですが、解説にもあるようにル・グィンといえば限界状況の旅ですよねという認識が再確認。「帰還」て章もあるしね。同様に両性具有なんて設定はフェミニズムの話題なわけで、ああ「帰還」やんか、ゲドの。タイトルの「闇の左手」も直接の表現は後半に出てきて、これはいいエアの創造ですねえという具合で全体的にル・グィンらしさが感じられて楽しめました。ゲンリーともう1人の主人公エストラーベンとの会話も感動的ですね。「ああエストラーベン、昨夜わたしが言ったことを許してください――」 返答→ 「ヌスス」 テ ラ ヌ ス ス 。この2人ってBLだよねと思う人は自分だけではないようです。

断片的にちょくちょく面白かったんですが、ストーリー全体としてはカタルシスがどかーん、という話ではないのでどうかな・・・でも、ゲンリー・アイ(Genly Ai)が編纂したと思しき説話集など(原註がG・Aと表記されている)の内容が後々の展開とつながりを見せていることとかは深いなあやっぱ1流の作家は違うねつー感じで。