年末の宙出版BL本の話


キャノン先生を買いに出かけて代わりに買った本の感想。
1つはコレ。

このBLがやばい! (Next BOOKS)

このBLがやばい! (Next BOOKS)

別に宙出版がスキだから買ったわけじゃない。ランキングを嘲笑いたいだけだから、勘違いしないで欲しい。


まあツンデレはおいといて、純情ロマンチカジェラールとジャックがランク入りしている時点で考えを改めねば。「今年やばかったのはこのBLです」というのじゃなくて「私が人生で一番スキなBLがコレ!」という本。狙いとしては毎年出ている宝島社ランキング本に便乗して、今年はウチも「801ちゃん」がヒットしたからBL版ランキング作れば波に乗れるんじゃね?という。体裁も宝島社版に従い、「各界のBL通たちに今年のBLベスト5を出してもらい集計してランキングを作成」という形式。


フタをあけたら、それこそがまずかった。「各界のBL通」がそんなに「今年らしいBL」ってしっかり読んでるわけじゃないんだよねー。ぶっちゃけ、魂の1冊があれば何年でも生きていけるワケよ。新人の発掘なんて一部の物好きにまかせとけって、そん中から面白そうなのあれば読むから。そういう感じで「別段今年が凄かったわけではないが、ファンは例年通り大興奮して読みました」「今年も何もとっくに完結してますが、ファンは今でもこの作品を寝る前に読んでいます」というノリで作られてしまったんでしょう。
みんなそんなに現在進行でBL読んでるわけじゃないよ、自分の神作家を後生大事にしてるんだよ、話題になった作家だけが辛うじて共通点だよ、人と人は互いに分かりあえないよ、そんな現実を目の当たりにしました。良い悪いではなくて、BLジャンルの懐の深さゆえこういう事態になるのだなあと認識。個々の穴底の狭い範囲では堅固なつながりがあるが、すぐ隣の穴とは高い高い壁がそびえ立っている。BL読みと称する人たちの役割は地表から色んな穴に向かって「お前らこっちも面白いからたまには出て来い」と騒ぎ立てることなのですね。


あまりいいこと書いてないですが、ランキング自体一部を除けばそんなにおかしくはないし、ゴールデンホモー賞攻部門とか新人紹介とかは面白く出来てたと思う。宙出版にそんな難しいことを求めてはいけない。あと山本文子のランキングが見れて嬉しかった。宝島社ランキングは今年安かったですが、あれも山本文子が載っていないことを考えれば当然の成り行きです。あの人くらいしかちゃんと自分でマンガ読んでる人がいないので。常識的に考えれば今年はマンガ沢山読まなかったから一般ランキング作るのは辞退したのだろうが、そもそもそういう自覚の無い人が多すぎるので。



で、もう1冊がコレ。

詩と批評とあと何か。何か=BL。ユリイカがこの先生きのこるには西島大介に頭が上がらなくなっても仕方ないよねー。しかし青土社の人はどう思っているのだろうか。

まあこっちの本も立ち読みで笑い飛ばすつもりだったんですが、思ったよりも出来がよかったので買いました。注意しておくとランキング本ではない。巻頭の座談会で「マンガと小説あわせて月150点近くも出ている現状ですべてをキッチリ網羅するのは無理だ」と保険をかけておいて、「このBLがすごい!'07」のコーナーで3割も06年以前の作品を入れてしまうのは若干の開き直りを感じないでもないですが。何で日高ショーコはシグナルじゃなくてリスタートなのかな?かな? 山本さんキスブルーは今年続巻が出てるのに何で去年の1巻を出すのかな?かな? 


とはいえ自分のBLランキングで入れた作品も5つほど言及されていたし、不満というほどではない。大体執筆者はみなマンガ研究の立場なので、対象が最先端より少し遅れてしまうのは自然なこと。そう思うと草間さかえやトジツキハジメが紹介されているのも無理はないよね。十分時流に乗っているレベル。雑誌連載をリアルタイムで読めというのはやや無茶な要求になるか(山本文子が座談で「『シグナル』の脇役が主役になってる「嵐のあと」がまだ単行本になってないけど良かった」と発言しているのはとても偉い)。自分は腐女子であることがどうの、といった話題は専門外なのでこの特集でもBLマンガと作家の紹介に限った内容についての感想になるけど、BL研究している人たちの萌えどころは何であるか的なプライベート拝見として楽しめば勝ちなのではないかと思いました。


そういう視点で眺めると、例によってhttp://taimatsu.cocolog-nifty.com/1yaoi/吉本たいまつさんが頑張ってるなあという印象。京山あつきのインタビューは冷静さを失っているが、ファンだから仕方ないよね。みんな知ってるし(みんなって誰だ)。座談会で「BLで結婚や妊娠の話を前向きに描くことが云々」という話題になっていたんですが、高橋悠の『結婚の条件』『お見合い結婚』に何故触れないのか、って古いし仕方ないか。


上の宙出版社の方とは異なり、執筆者たちの間の共通了解の良さ、裏返せば「多分読んだ全てのBLのうち7割くらいはこの本で話題にされてるんだろうなあ」くらいの余裕の無さ・持ち駒の少なさを感じたが、研究者間で足並み揃ってますよという主張ならいいのかも。たいまつ氏に限らずインタビューは聞き手がしっかりしたファンらしく、ツッコミが的確でよかった。「私、この先生のファンです!」的な熱さが出ているので、ニヤニヤしながら読めばいいんじゃない。


しかしアユヤマネのインタビューで聞き手の金田淳子の「最近では東京漫画社の『MARBLE』があり、おそらくその成功を受けて作られた茜新社の『OPERA』などがあるわけですけど」ってセリフは茜新社と共にルネッサンス吉田に注目しているヤマネ先生がブチギレてもおかしくないんですが。あれほどみんな basso basso と騒ぎながら「EDGE COMIX」のレーベルは目に入らないのだろうか。「OPERA」の前身である茜新社の「EDGE」の創刊は04年5月、東京漫画社の「MARBLE」の創刊は同年の8月ですよ! 細かいことを言えば「MARBLE」の前身は松文館の「Rooster」「Kanaan」にあるので(この辺のことはTMR会誌36号の個人原稿「MARBLEとEDGEのカンケイ。」で調べた)、茜新社が後進であるという言い方が出来なくもないけれど・・・・。
それはともかくアユヤマネ本人はなかなかストイックな感じでいい作家ぽいですね。インタビューを読んだら単行本も買いたくなりました。前に買って捨てた記憶もあるけど。西田東もインタビューで少し前の非BL作「ラクな仕事したい」の図版が出ているんですが、これだけ見るとそのままフィールヤング行ってしまいそうな端正な上手さがあって興味深かった。


結局この雑誌も07年度のBLマンガ総括と紹介という意味合いではそこまで期待してはいけないのですが、まあ、そういうのが求められはじめてはいても、供給はまだまだ難しいというところか。読み手の性質も含めて特異なジャンルなのだなと再確認しました。他人のBLのランキング見て嘲笑って楽しむ、なんてのはネットでやれと。自分ももっと騒ぐべきな気が。