活字のみ。

  • 野尻抱介 『太陽の簒奪者』(ハヤカワJA)
    • 2006年、地球はかつてない危機に直面していた。水星に突如出現した建造物が鉱物資源を太陽に向けて噴出し、地球の日照を遮る形でソーラーパネルに似たリングを太陽周囲に形成しはじめたのだ。氷河期への大規模な気象変動の予兆が訪れる中、主人公白石亜紀たちは異星文明の手がかりと思われる「リング」の破壊を任務に水星を目指す。だがそれは更なる脅威の前触れに過ぎなかった! というお話。
    • ちょっとねたばれあり。流石は「ベストSF2002」国内篇第1位、面白かったです。不気味な「リング」の科学的描写、未知のナノテクノロジーとの接触に心躍りました。ただ第一部「太陽の簒奪者」が終わると自分の中で段々興奮が薄れてしまいました。偉業を成し遂げた主人公がその後「望ましい異星人像」に無根拠に固執し、都合の良い推論を重ねて異星人とのコンタクトを固持し、挙句はコンタクト要員を私情で決める。その姿勢はどう見ても科学者としての客観性を失っていて、感情移入できませんでした。偏見かもしれないけど中途半端に人間ドラマしない方がよかったんじゃないかなあ。ハードSFなんだし。あとコンタクトのオチもやっぱりそこなのか予定調和っていう・・・
  • ドリス・レッシング 『破壊者ベンの誕生』(新潮文庫)
    • ノーベル文学賞の人。ドレス・リッシングだったっけとこんがらがります。家族愛によるアットホームなを夢見て子供を育ててきた家庭に生まれた5人目の鬼子が、暴力とも情緒不安ともつかない奇行によって一家の団欒を奪い取っていく話。典型的な家族の幸せを否定する彼の振る舞いが、最終的にはニューオーダーな全く別の価値観の先駆けとなって終劇って感じでした。見当違いではないと思う。ベンが誕生するまでの問題もありながら明るい我が家、というのに全体の1/3を費やします。鬼子ベンの不気味な言動が平凡な一家を言い知れぬ恐怖へと次第に引き込んでいく、みたいなのを期待しすぎると×。上で書いたように考えて読むと結構納得できる箇所が多いんだが、わざとらしいというかチープというか、後半の鬼子がどう成長していくかの描写は普通すぎて説得力がありませんでした。
  • 長谷敏司 『円環少女』2〜6巻
    • 某日記4と同じ感想になってしまうが、読書体験として凄くユニークだと思う。立ち止まって考えると脈絡の分からなくなる事柄は多いけれど、読んでいる最中はボリュームのツマミがずっとMAXなので文章の勢いにのって楽しめてOK。冷たい現実に裏打ちされた笑顔を抱きしめつつ、超絶ムッツリスケベも味わえるという離れ業もたまらない。内容については深く言及しませんが、主人公たちの心情はいまいち重みを持たない(ある種王道なので仕方ないか)一方で、サブキャラの葛藤や一般人の扱いは本当に見事だと思います。7巻のイラストはオルガですかね。
    • ところで読みにくいという評判について思ったこと。1巻読んだときは「天才肌でアイデアの沸いた先から筆に乗せるからこのスピード感と圧倒的盛り上がりが産まれるので、推敲は勢いを殺すことになりかねない。文体を生かすためにこの読みにくさは敢えて残してるんだろうなあ」と推測してたんですが、6巻後書きで“読みやすくなるよう最大限どりょくしましたので(文字の詰まり方を)”(←カッコ内引用者) とあるのを見ると、この人はひょっとして読者がどういう部分を読みにくいと感じているのか解ってないのでないかという気が。今は「天才肌で自分では分かりきったことを並べて書いているから読み手の頭がつられてクロックアップするので、読みにくいのはそれについていけなかった箇所なんだろうなあ」と思ってます。どう読みにくいのか言ってしまうと多分つまらなくなるので、このままが良いという意味では変りません。