買った本はひと通り読み終わった。


Miss Don't Touch Me by Hubert(Story and color), Kerascoët(Art)

Miss Don't Touch Me

Miss Don't Touch Me

  • 先日ちょっとだけ言及したとおり、kosame.org(http://kosame.org/2009/12/best-of-2009/)さんの記事から購入。内容のプレビューはttp://scans-daily.dreamwidth.org/1594540.htmlで読める。多分違法スキャンなんだが、出版社のオフィシャルなプレビューは割とネタバレで紹介しづらいので。
  • あらすじ:舞台は1970年代くらい(超適当)のパリ、巷は娼婦ばかりを狙う連続殺人犯"Butcher of the Dances"の話題で持ちきりである。ヒロインのBlancheは犯行現場を目撃し、そのとばっちりで唯一の家族だった妹を殺されるが、死体は自殺に見せかけられており警察は動いてくれない。妹の無念を晴らすべく、潔癖な彼女は自ら娼館に潜入しそこで働くこととなる。かくして男性客と一切の性交渉を行わずに鞭で叩くサービスのみを提供する処女の人気娼婦、"Miss Don't Touch Me"が生まれたのであった。果たしてBlancheは貞操を守りながら犯人を突き止めることが出来るのか? という話。
  • Kerascoëtは夫婦1組のイラストレーターでHPもある。フランスらしいお洒落な可愛らしい絵柄で、上記プレビューを見てもらえれば分かるように、本作品のヒロインは表情豊かで非常にかわいらしい。こんな可愛い娘がSM女王様でしかも処女だなんて倒錯過ぎてどうにかなっちゃいそうなのに、娼館ではイジメありセクハラあり微百合ありオネエあり、なんとオープンな雰囲気、さすがフランス、という期待に応える良作。といってもポルノ作品ではないし、絵柄のおかげでいやらしさは無い。ストーリーはこれらの舞台設定をきっちりと生かしており、あっさりとした結末も相まってかなり堅実な印象を受けた。このシリーズはフランス語で第4分冊まで刊行されており、本作の収録内容は第1,2分冊に相当する。続きも英訳されるといいね。




Blue Pills: A Positive Love Story by Frederik Peeters

Blue Pills: A Positive Love Story

Blue Pills: A Positive Love Story

  • HIV感染者の女性Catiと作者自身、そして彼女の連れ子(同じくHIV感染者)の3人の生活を描いた自伝的作品。オノナツメ黒田硫黄を連想させる、墨ベタのかすれた絵柄が魅力的。プレビューがどっかで見られないかと色々探したが画像検索くらいしか無かった。影の表現がハッとするほど上手くて素敵なイラストなんですけどね(追記:グーグルの書籍検索でしっかり読めた http://books.google.co.jp/books?id=VU20avA_eQAC&printsec=frontcover)。題材が題材なので内省的な語り口が読んでいて多少疲れるが、死別モノ感動ストーリー的な説教臭さ・とってつけたような生きる希望は出てこない。別に誰も死んでないしね。英語ウィキペディアによると、2人の間に今は娘が1人いるらしい。作品自体は2001年に描かれたもので、それ以降HIV感染者と付き合ってるマンガ家として売り出しているわけでもなく、本国スイスでは何冊もBDを出している人なので、この作品以外も英訳して欲しいところ。表紙絵の、波間にたゆたうソファに腰掛けて笑いあう男女という図が素敵だなと思って購入したらその印象が大体そのままの内容だったので、同じく表紙絵に感じるものがあればお勧めしたい。
  • はまぞうのAnjali Singhという人はただの翻訳者です。




Ordinary Victories by Manu Larcenet, Patrice Larcenet(Colors)

Ordinary Victories

Ordinary Victories

  • あらすじ:Marcoは戦場カメラマンとしてウガンダ東ティモールで活躍していたが、死体写真で評判を得るのにすっかり嫌気がさしてしまい、今まで取りためてきた写真は全部捨て、仕事の依頼も断ってとりあえずぼんやりすることにした(上の書影の図)。パニック発作抗不安薬が手放せないことは除いては、田舎暮らしで悠々と過ごしている。近所の爺さんと話をしたり、年老いた両親に会ったり、また好きな写真だけを家の壁に飾ったり、都会に出向けば兄弟とハシシ(joint)のドラッグパーティをしたり・・・ だが同棲している彼女はいつまでも閉じこもっているMarcoに対して、変わらなければならないと説く。そしてMarcoを待ち構えている状況は決して気楽なものではなかった。
  • Manu LarcenetはBDの中堅〜大作家で、著作も多い。アマゾンのなか見検索で読める範囲ではデフォルメされたキャラクターの描かれたコミカルなタッチだが、本作では時折絵柄を変えて、写真のアップや風景絵が緻密に描写される。パニック発作時の主人公の不安感も非常に臨場感があって怖い。年季を感じさせ、読み応えのある作品だった。主人公の周囲を取り巻く状況は少しずつ変容していき、辛い出来事を彼は乗り越えていく。特に彼の父親との交流は非常に悲しいムードを帯びており、読み終わって次巻(完結巻)ではどうなってしまうのかと気になってしまった。最終的にそれらの出来事をどう乗り越えて、写真家として再出発していくかが提示されるだろう。こういった、ざっくりと言うなら人生を考えていこうというスローテンポな主題はエンタメとしての需要の高い日本のマンガよりもBDの方がやや前面に押し出されているように思うが、作者の表現力がいちいち高いので素直に受け止められた。はやく次巻を買わねばね。



The Fate of the Artist by Eddie Campbell

The Fate of the Artist

The Fate of the Artist

  • エディ・キャンベルといえばアラン・ムーアの『フロム・ヘル』の作画担当であることはみんなご存知ですよね。「グラフィックノベル」の日本語wikiの芸術活動の項目ではキャンベルさんがグラフィックノベルの芸術宣言みたいなこと言ったとか書いてあります。コミック形式をより意欲的かつ有意義な水準まで引き上げる、と言ったりして割と頭でっかちで自意識過剰なuzai感じの人なのかなーという先入観を持ってたんですが、まあ代表作の"Alec"もセルフリファレンスな感じだし、この作品もキャンベル自身がいなくなって架空の芸術家を作って登場キャラクターを演じる俳優が議論しだすとか、やたらメタ的な話なんでuzai認識を強めました。有体に言えば面白い作品なのかもしれないが、英語が難しすぎてほとんど分からなかったんだよばかちん。キャンベルさんの思想を知りたい人は熟読すると良いんじゃないでしょうか。
  • 出版社のFirst Secondから刊行作を何か1作読みたいなと思ったら何故かこの作品になったんだが、最新作の"THE BLACK DIAMOND DETECTIVE AGENCY"を読むべきだった気がする。

ここで紹介した作品はキャンベルさん以外どれも面白かったです。