最近読んだ本と雑誌
ヴァレリーラルボー『幼なごころ』
ヴァレリイ・ラルボオって書くと大正の香りがしますね(適当)。岩波のフランス短篇傑作選だかに収録されていたこの作者の作品「ローズ・ルルダン」が結構面白かったので読んでみたけど、当たりでした。作者自身の子供時代を投影させた(と思しき)、子供達が主人公の短編集。昔読んだ吉行淳之介の『子供の領分』を思い出したけど(全然知らないが吉原理恵子ではない)、それより性の目覚めとか青臭い要素を「幼なさ」に置き換えた感じ。どれを読んでもいい体験だったけど、なかでも収録されてる「包丁」という作品が素晴らしい。名家に生まれたまだ幼ない主人公エミール(愛称ミルー)と、年下の彼に仕える十二の小娘ジュリア。ジュリアの性格付けが実に新鮮でよかった。

「あたしをぶたないで下さいな。もう脚で蹴ったりしないで下さいな。さもないとあたしは死んでしまいます。もしさわったら、あたし、自殺するから。見て、このナイフを心臓に突き立てるわよ! 乱暴されるのは我慢できないわ」

と言ったと思えば、

「許してくださる? 下さるのね。まあ、嬉しい! もう二度とあなたを怒らせるようなことはしないわ。じゃ、馬乗り遊びしましょうか。あたしの背中にお上がんなさいな。あたしの首に腕を巻いて、そう、しっかり締めつけて、痛いんじゃないかなんて心配しなくてもいいの。いまならあたしの頭をこづいてもいいわ。乱暴されると嬉しいの」

後ろだけ読むとちょっとあぶないけど、前後で正反対のことを言っているこの情緒不安定ぷりは見事。これで普通は主人公の「エミール坊ちゃん」をからかってるのだから、もうそれなんて属性? 

「あたしは?」「あたしはって、なにがさ?」「あたしは、これから一年間、可愛い大切なご主人さまに会えないあたしは、淋しくないとでも思ってるの?」「なんだ、そんなことか。お前にはどうだっていいことぐらいわかってるさ」

ミルーひどい。中途半端に引用するとこんな感じだが、実はミルーは新しく臨時に雇われた小間使いの女の子に一目ぼれしてて、ジュリアはそれに気付いてて、でそれをなじるセリフもまた秀逸。作品で最後にミルーが言われる言葉がもう完璧すぎ。とか色々ここで書いても伝えられないが、この作者を知ったことは収穫でした。「「包丁」を読んだときの感動があまりにも強烈で、一年以上経った今でもまだ少し胸が痛みます」とプルーストは絶賛したそうだが、そりゃまープルーストの『ある少女の告白』は似たような題材だけどめっちゃつまらんかったもん。とか思った。


ちょっとコアな話
近所のブックスーパー伊東を覗いたら、同人誌のコーナーが出来ていた。しかもちょっと見たら限界通信社とか水燈(夏目わらび)とかiG(「穴街の彼等」)といった創作同人もあってびっくり。よくまんだらけでBL漫画やら同人やらを大量に売りに来るおじさんを見ると「娘さんの蔵書が没収されたんだな・・・」と顛末を想像して実に不憫な気持ちになるが、「僕の近所にもコミティア行く人が他におるんやな・・・」となんとも言えない気持ちになった。そんだけ。